解題

 中井履軒の暦書。履軒が自分の住まいを「華胥国」という伝説の理想郷に見立てて著した一連の著作の中の一つである。履軒は、現実からの逃避ではなく、現実を超えた架空の場に身を置くことで、日常世界の既成概念に束縛されることなく現実を捉えなおそうとした。本書も、この理想郷に相応しい、新しい天体観をもって創案され、いち早く太陽暦を取り入れている。その背景となっている西洋天文学の知識は、主として清の游芸(ゆうげい)が撰した『天経或問(てんけいわくもん)』から得られた。『天経或問』とは、中国の伝統的天文学を基盤に西洋の天文学を紹介した書物で、履軒はこれに注釈を加えて『天経或問雕題』を著している。また新暦を作成するに当たっては、江戸時代を代表する天文学者、麻田剛立との交流によるところも大きかった。

 暦は、通常、農期を明記することを目的に作られるが、この履軒の新暦には、貞享改暦以来(貞享暦は貞享2年(1685)から宝暦3年(1753)まで用いられた)、非科学的な迷信記事を多く載せる当時の暦への反発もあった。そのため、この新暦は、合理的現実主義者である履軒らしい、至ってシンプルなものになっている。具体的には、享和元年(1801)の暦を、上下二段組に編集し、上段には太陽暦の日付を、下段にはそれに対応する太陰暦の日付を記している。上段では、1年を12カ月に分けず、太陽暦の節目となる二十四節気に従って、立春を1年の始まり、すなわち春の第1日とし、以下、立夏を夏の第1日、立秋を秋の第1日、立冬を冬の第1日といった具合に1年を四季で分けているため、春は93日、夏・秋・冬は各91日、1年は計366日となる。一方、下段では、従来どおり12カ月を立て、太陰暦の節目となる朔・西弦・望・東弦を明記し、立春の次の朔を1年の始まり、すなわち正月の一日とし、以下、朔を毎月の月初めとしているため、正月・三月・五月・七月・八月・十月・十二月は各30日、二月・四月・六月・九月・十一月は各29日、1年は計355日となる。また二十四節気および朔望に当たる日については、最上段に干支を記している。

 なお、履軒は、本書に先んじて、安永9年(1780)に、「華胥国暦書」(『有間星』巻一)を作成している。この「華胥国暦書」ならびに『華胥国新暦』は、平成2年(1990)、懐徳堂文庫復刊叢書3として、『華胥国物語』などとともに復刻刊行されている。


資料名 華胥国新暦
よみがな かしょこくしんれき
関係人物名 中井履軒
よみがな なかいりけん
抄本・刊本等の別 抄本。(中井履軒手稿。)
成立年・刊行年 未詳。
数量(冊数) 1冊
寸法(cm) 縦23.9×横16.4
版式 四周単辺。有界。毎半葉9行。
版心 白口。無魚尾。横一線。
内題 「■」。
外題 書題簽「華胥国新暦」。帙題簽「■」。
奥書 なし。
刊記 なし。
印記 「天生寄進」「懷コ堂圖書記」「大阪大學圖書之印」。受入印「■」。
装丁 四針眼訂法。全■丁。
備考 特になし。
付箋番号
懐徳堂文庫図書目録該当頁 国書11下
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